マリア様がみてる「ハローグッバイ」(完結)

元々、マリア様がみてる乃梨子視点のものだった、と作者の今野氏はかつて語っている。

マリア様がみてる 33 ハローグッバイ (コバルト文庫)

マリア様がみてる 33 ハローグッバイ (コバルト文庫)

乃梨子のキャラクターを見るに、これは正しく少女世界における異邦人で、今野氏ならば変更が無くとも、大体において素晴らしいものを書いただろう。

一方、祐巳はどうか。彼女は乃梨子ほど傲然ではない。家は見事なまでに中産的で、父親は建築家。サラリーマン家庭の暗さは無い。母親も鷹揚で、双子の弟は意気揚々、姉からは生意気とも映る。祥子と比べるからこそ見劣るが、彼女も十分にお嬢様の範疇に入る。それを言うならほぼ全てのキャラクターはお嬢様学校に通っている。

この楽観さが祐巳の長所で、これが乃梨子の場合、そうはいかない。ただし、巧みなのはそれが、シリーズの後期に至れば至るほどそうなることで、これは乃梨子が意図的にキャラ付けされていったことに他ならない。志摩子との関係は彼女と聖の関係を引き継いでいるし、祐巳よりもずっと過剰なスキンシップがある。誤解を与える気は無いのだけれど、レズビアン的ですらある。

祐巳乃梨子、果たしてどちらが最初の段階で主役として適当だったのかはわからない。しかし、乃梨子が主役となっていた場合、祐巳乃梨子のようにはならなかっただろう、とも思う。

これだけ長期に渡って、それでいてきちんと完結へと持っていった今野氏の技量には頭が下がる。編集各位の尽力もあったろう。また様々な人と長く読み合わせることのできる物語を、私は手にしたいと思う。